前十字靭帯損傷

膝関節前十字靭帯損傷とは

前十字靱帯( anterior cruciate ligament:以下 ACL)は、膝関節の中にある靭帯で、大腿骨顆間窩の後側外方から脛骨顆間隆起に付着しています。 ACLは前内側線維束( anteromedial bundle:以下 AMB)と後外側線維束( posteolateral bandle:以下 PLB)に分けられます。 ACLは、脛骨の前方脱臼を抑止するとともに、脛骨の内旋、膝関節の外反、膝関節の過伸展を抑止しています。
 
       
 
【正面から見た図:右膝】       【横(内側)から見た図:右膝】
(赤色で囲っているのが AMB、青色で囲っているのが PLB
  ACL損傷は、スポーツ活動中に好発する膝靭帯損傷の1つです。タックルなどの膝関節への直接的な外力に起こる接触型の損傷と、ジャンプの着地、急激な減速、切り返し動作など他者との接触のない受傷起点で起こる非接触型の損傷に分かれます(約 70%が非接触型の損傷)。受傷時、膝がガクッと外れるような感覚と「ゴリッ」や「ポキッ」などの音を体感することもあります。

 

膝関節前十字靭帯損傷の症状

「膝が腫れて、熱を持っている(関節内血腫)」
「膝がぐらぐらする(不安定性)、歩いている時に膝がガクッと崩れる感覚がある(膝崩れ)」
「膝に力が入らない(腫脹の影響)」
「膝が完全に伸びない、曲がらない(可動域制限)」    などが主な症状となります。

膝関節前十字靭帯損傷の診断

当院では ACL損傷の疑いがある場合は、スポーツ・膝関節専門外来にて診察をします。
・問診:受傷時のプレー状況(接触・非接触)、膝関節がどのような方向へ強制されたか
・膝関節の腫脹(血腫)・熱感の有無
・徒手検査による膝関節不安定性の評価
  Lachmanテスト、 pivot shift(軸移動)テスト、前方引き出しテスト、 Nテスト
MRI画像での損傷靭帯の描出( ACLの連続性が断たれている)、骨挫傷( bone bruise) 
上記の結果をもとに総合的な診断を確定します。
MRI画像】
 
 
 

  (正常膝:連続性あり)      (損傷膝:連続性なし)    (損傷膝:骨挫傷)

膝関節前十字靭帯損傷の保存療法

 受傷直後は、膝の腫れや痛みにより歩行が困難ですが、しばらくすると日常生活は問題なくジョギング程度はできるように回復します。しかし、スポーツ時には、膝崩れを起こす事が多く、長期的にはスポーツ継続が困難となります。積極的なスポーツ復帰を希望の場合、原則的には手術療法を選択しています。スポーツ復帰の希望がない場合や、最後の大会などで手術をすると間に合わない場合は、保存療法を選択することもあります。
・炎症、可動域、筋機能の改善
・装具着用下で筋力回復、有酸素運動、関節固有受容器機能訓練
・運動時にはテーピング、サポーターを装着

膝関節前十字靭帯損傷の手術療法

・術前リハビリテーション
受傷後より適切なリハビリテーションを開始します。まずは炎症と膝関節の可動域改善に努めながら、太腿の筋肉(大腿四頭筋)が細くならないようにリハビリを行います。受傷後 3~4週ほどで日常生活はほぼ通常に送れるようになります。手術前の状態が良ければ手術後の回復も順調に進みますので、手術に向けてより良い準備を進めていきます。
・手術療法の説明
 当院では、関節鏡視下に自家腱移植による再建術を行っています。多くは半腱様筋腱のみを用いますが、腱の太さによっては薄筋腱も用いる場合もあります。
【解剖学的 2重束再建術の術式】
1)半腱様筋腱(薄筋腱)の採取

2)脛骨側骨孔の作製
3)大腿骨側骨孔の作製
4)半腱様筋腱を用いた再建靱帯の作製

AMBPLBをそれぞれ作製することにより、 ACL本来の三次元的なねじれにより近づくことができます。 
5)再建靭帯の固定
 
 

 (作製図:イメージ)  (術後 1年のレントゲン)    (術創部の位置)
  
・術後リハビリテーション
再建靱帯と骨孔の固定性を高めるため、荷重と膝関節可動域訓練は徐々に始めて行きます。
術後 1週間の入院中は装具で膝関節を固定し、退院後に膝関節の可動域訓練を開始します(図 1)。入院中のリハビリテーションは、退院してからの生活を安心して送れるように、炎症管理や退院後の生活指導に主眼を置いています。
術後 2週間経過後に部分荷重で歩行を開始し、術後 6週間経過後に松葉杖を外します(表 1)。外来通院は 23/週通院していただき、担当の理学療法士と状態をチェックしながら徐々に活動量を上げていきます。術後 3ヶ月以降で KSメジャー( ACL機能検査機器)による膝関節の安定性評価を実施(図 2)。術後 45ヶ月のジョギング開始時には片脚立ちあがりテストを実施(図 3)し、開始基準をクリアできているか確認します。術後 34ヶ月まで膝装具をつけて生活します(図 4)。術後 6ヶ月以降、バイオデックス(筋力測定器)を用いた筋力測定を行い(図 5)、ジョギングなどの基本動作から部分練習へと進みます。術後8ヶ月以降で競技専門的動作の動画チェックも医師と確認し、スポーツ復帰へ向けてプログラムを進めていきます。
スポーツ競技内容と選手個々の事情に応じて術後 8ヶ月から 12ヶ月前後で徐々にもとのスポーツへ復帰します。
・最後に
術後スケジュールは執刀医の方針と患者様の状態により下記スケジュールと異なる場合があります。担当の医師・理学療法士の指示のもと、安全なリハビリテーションを行い、スポーツ復帰、再断裂予防、パフォーマンス向上を目標に取り組んでいきます。
 
 
 

    (図 1)             (図 2)         (図 3
 

    (図 4)            (図 5

(表 1